小劇場　「なんとなく・・・な」

2001/01/19

７月の初め、梅雨の真っ只中だった。粉糠雨の中、その二台は出会った。

黒鉛鼠色の古臭い一台は、その貧乏臭い雨の中をやって来た。
月長石鼠色の一台は、車屋の軒下で貧乏臭い雨をしのいでいた。

黒鉛鼠色の車は静かに問う。 「お前が、この男の次のアシか？」 月長石鼠色の車は静かに答える。 「そうらしいな。」

黒鉛鼠色の車に乗って来た貧乏臭い男は、車内の荷物をそそくさと月長石鼠色の車に移した。
そしてその男は車屋の男に挨拶し、月長石鼠色の車の運転席に納まった。

「なあ、この男はどんな奴だ？」 貧乏臭い男が車屋を離れる直前、真新しい車は、くたびれた車に尋ねた。

	「ん？そうだな…。雑な男だよ。扱いも荒いし運転も荒いし下手だし。 　まあ、疲れるほどは働くな。長生きしたけりゃな。」
	「そういうあんたはなかなか長生きのようだな。」 「まあ、そうかもな。どうしてかな。」

そんなやり取りを知ってか知らずか、月長石鼠色の新たな持ち主は
相変わらず降り続く粉糠雨の中を走り出した・・・

長年連れ添った黒鉛鼠色の車を、車屋の軒下に残して・・・

終劇

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